写真,思い出

母の着物とその思い出

先日、母が亡くなりました。私が結婚して一年も経たないうちに、体を壊してあっという間に。全く実感がわかないまま、姉と母の遺品を整理し始めました。旅立つときに着せる服を何か選ばないと、と母の箪笥を開ける姉に、私は「着物がいいと思う」と提案しました。姉は、母が着物を持っている印象がなかったのか、「どこにあるのか分からない」と言っていましたが、私は姉に代わり母の箪笥を開け、母が気に入っていた着物を見つけ出しました

 

知っていた理由

私だけその着物があることを知っていた理由は、写真を撮ったからでした。十年くらい前、私は体調を壊して入院し、退院後も一人暮らしの家には帰らず、実家で静養していた時期がありました。小学校から短大まで運動部に所属し、体力には自信のあった私は、入院するほどの病気をしたことでかなり精神的にも凹んでおり、母はそのことがとても心配だったとあとから聞きました。

 

実家の部屋に閉じこもる私に母が出してきたのが「着物」です。「私はこの着物が好きなんだよね、あなたは着たことなかったっけ?」そんな風に声をかけながら、決して派手ではない、いわゆる普段使いの着物を見せてくれました。
興味はあったものの「着物というのは高いものだから、私には縁がない」と思っていた私は少々驚いて、「この着物どうしたの?」と聞いてみると、母はにっこり笑って、「私のお母さん、あなたのお祖母さんからもらったんだよ」と教えてくれました。

 

着物を着た思い出

祖母は、母が結婚して私を産むのと入れ違いで亡くなりました。その時の形見分けで、祖母が一番好きだった着物をもらったんだそうです。「お祖母ちゃんもあなたを心配してると思うから。着てみる?」その時の母の笑顔を、今でも覚えています。
私が覚えている限り着物を着たことなど一度もなかった母ですが、襦袢なども持っており、私に手早く着付けをしてくれました。小さかった私たちの世話に追われ、趣味である着物を着る暇はなかったそうです。
あっという間に、着物を着た私が完成しました。母は嬉しそうに「やっぱりお祖母ちゃんに似てるんだね」と笑いました。その頃すでに携帯が普及しており、母も持っていたにも拘らず、母はフィルム式のカメラを取り出して、写真を撮ってくれました。

 

母が着物を着ている写真ではありません。でも、母が着付けをしてくれた私が笑っている写真です。その写真を見ると、今でもその時のことを鮮明に思い出すことができます。